複素数の偏角
複素数の偏角
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数学において,arg は(複素平面において視覚化される)複素数上の関数である.それは正の実軸から点と原点を結ぶ直線までの角度を与える.図1では φ で表されており,点の偏角(へんかく、英: argument)と呼ばれる.
目次
1 定義
2 主値
2.1 表記
3 計算
4 恒等式
4.1 例
5 参考文献
5.1 脚注
5.2 文献
6 外部リンク
定義[編集]
複素数 z = x + iy の偏角は,arg(z) と書かれ,2つの同値な方法で定義される:
- 幾何学的には,複素平面において,正の実軸から z を表すベクトルまでの角度 φ である.数値はラジアンでの角度で与えられ,反時計回りに測ったときに正である.
- 代数的には,ある正の実数 r に対して
- z=r(cosφ+isinφ)=reiφ{displaystyle z=r(cos varphi +isin varphi )=re^{ivarphi }}
- となるような任意の実数 φ である(オイラーの公式を参照).量 r は z の絶対値であり,|z| と書かれる:
- r=x2+y2.{displaystyle r={sqrt {x^{2}+y^{2}}}.}
絶対値を大きさと呼んだり偏角を位相[1](あるいは振幅[2])と呼んだりすることもある.
いずれの定義においても,任意の(非零)複素数の偏角の取り得る値はたくさんあることが分かる:まず,幾何学的な角度として,一周回転させても点が変わらないことは明らかであり,したがって 2π ラジアン(完全な円)の整数倍の差がある角度は同じである.同様に,sin と cos の周期性から,第二の定義でもこの性質を持つ.
主値[編集]
0 の周りをちょうど一回転させても複素数は変わらないから,φ の取り方は,任意の回数原点の周りを周ることによって,たくさんある.これは図3に示されている.多価(集合値)関数を表していて,垂直線と曲面との交点の高さが,その点の角度の可能な選択すべてを表している.
well-defined な関数が要求されるときは,主値と呼ばれる通常の取り方は,開閉区間 (−π, π], つまり −π から π ラジアンまでで −π を除く値(同じことだが −180 度は除いて −180 度から +180 度まで)である.これは正の実軸から両方向に完全な円の半分までの角度を表す.
著者によっては主値の範囲を閉開区間 [0, 2π) と定義する.
表記[編集]
主値は,特に偏角の一般バージョンも考えているときには,Arg z のように最初の文字を大文字にすることがある.表記には揺れがあり,arg と Arg が文献によって逆になったりすることに注意.
偏角のすべての可能な値の集合は Arg を用いて次のように書ける:
- arg(z)={Arg(z)+2πn∣n∈Z}.{displaystyle arg(z)={operatorname {Arg} (z)+2pi nmid nin mathbb {Z} }.}
同様に
- Arg(z)={arg(z)−2πn∣n∈Z ∧−π<Arg(z)≤π}.{displaystyle operatorname {Arg} (z)={arg(z)-2pi nmid nin mathbb {Z} land -pi <operatorname {Arg} (z)leq pi }.}
計算[編集]
x + iy として与えられた複素数の主値 Arg は,関数 atan2
あるいは言語による変種を用いて多くのプログラミング言語の数学ライブラリで通常利用可能である.atan2(y, x) の値は範囲 (−π, π] における主値である.
y/x は傾きで,arctan は傾きを角度に変えるから,多くのテキストでは値は arctan(y/x) で与えられるとなっている.これは x > 0 のときのみ,したがって商が定義され角度が −π/2 と π/2 の間にあるときにのみ,正しいが,この定義を x が正でない場合に拡張することは比較的難しい.具体的には,偏角の主値を2つの半平面 x > 0 と x < 0(負の x 軸に分枝切断がほしいときは2つの四分平面にわける),y > 0 と y < 0 にばらばらに定義してから貼り合わせる.
- Arg(x+iy)=atan2(y,x)={arctan(yx)if x>0,arctan(yx)+πif x<0 and y≥0,arctan(yx)−πif x<0 and y<0,+π2if x=0 and y>0,−π2if x=0 and y<0,undefinedif x=0 and y=0.{displaystyle operatorname {Arg} (x+iy)=operatorname {atan2} (y,,x)={begin{cases}arctan({frac {y}{x}})&{text{if }}x>0,\arctan({frac {y}{x}})+pi &{text{if }}x<0{text{ and }}ygeq 0,\arctan({frac {y}{x}})-pi &{text{if }}x<0{text{ and }}y<0,\+{frac {pi }{2}}&{text{if }}x=0{text{ and }}y>0,\-{frac {pi }{2}}&{text{if }}x=0{text{ and }}y<0,\{text{undefined}}&{text{if }}x=0{text{ and }}y=0.end{cases}}}
4つの重なる半平面でのコンパクトな表示は
- Arg(x+iy)=atan2(y,x)={arctan(yx)if x>0,π2−arctan(xy)if y>0,−π2−arctan(xy)if y<0,arctan(yx)±πif x<0,undefinedif x=0 and y=0.{displaystyle operatorname {Arg} (x+iy)=operatorname {atan2} (y,,x)={begin{cases}arctan left({frac {y}{x}}right)&{text{if }}x>0,\{frac {pi }{2}}-arctan left({frac {x}{y}}right)&{text{if }}y>0,\-{frac {pi }{2}}-arctan left({frac {x}{y}}right)&{text{if }}y<0,\arctan left({frac {y}{x}}right)pm pi &{text{if }}x<0,\{text{undefined}}&{text{if }}x=0{text{ and }}y=0.end{cases}}}
Arg が区間 [0, 2π) にあると定義される変種では,値は負のときに値に 2π を足すことで得られる.
あるいは,主値は正接の半角公式を用いて一様な方法で計算できる:
- Arg(x+iy)={2arctan(yx2+y2+x)if x>0 or y≠0,πif x<0 and y=0,undefinedif x=0 and y=0.{displaystyle operatorname {Arg} (x+iy)={begin{cases}2arctan left({frac {y}{{sqrt {x^{2}+y^{2}}},+x}}right)&{text{if }}x>0{text{ or }}yneq 0,\pi &{text{if }}x<0{text{ and }}y=0,\{text{undefined}}&{text{if }}x=0{text{ and }}y=0.end{cases}}}
これは有理関数による円周(負の x 軸を除く)のパラメトライゼーションに基づいている.Arg のこのバージョンは浮動小数点の計算で十分安定でない(領域 x < 0, y = 0 の近くでオーバーフローするかもしれない)が,記号的な計算では使える.
オーバーフローを避ける最後の公式の変種は高精度計算でときどき使われる:
- Arg(x+iy)={2arctan(x2+y2−xy)if y≠0,0if x>0 and y=0,πif x<0 and y=0,undefinedif x=0 and y=0.{displaystyle operatorname {Arg} (x+iy)={begin{cases}2arctan left({frac {{sqrt {x^{2}+y^{2}}},-x}{y}}right)&{text{if }}yneq 0,\0&{text{if }}x>0{text{ and }}y=0,\pi &{text{if }}x<0{text{ and }}y=0,\{text{undefined}}&{text{if }}x=0{text{ and }}y=0.end{cases}}}
恒等式[編集]
主値 Arg を定義する主な動機づけの1つは,複素数を絶対値・偏角形式で書くことができることである.したがって任意の複素数 z に対して,
- z=|z|eiArgz.{displaystyle z=left|zright|e^{ioperatorname {Arg} z}.}
これは実際に有効なのは z が零でないときだけだが,z = 0 に対しても Arg(0) を未定義ではなく不定形と考えることで有効であると考えられる.
いくつかの恒等式が従う.z1 と z2 が2つの 0 でない複素数であるとき,
- Arg(z1z2)≡Arg(z1)+Arg(z2)(mod(−π,π]),{displaystyle operatorname {Arg} (z_{1}z_{2})equiv operatorname {Arg} (z_{1})+operatorname {Arg} (z_{2}){pmod {(-pi ,pi ]}},}
- Arg(z1z2)≡Arg(z1)−Arg(z2)(mod(−π,π]).{displaystyle operatorname {Arg} {biggl (}{frac {z_{1}}{z_{2}}}{biggr )}equiv operatorname {Arg} (z_{1})-operatorname {Arg} (z_{2}){pmod {(-pi ,pi ]}}.}
z ≠ 0 で n が任意の整数のとき,
- Arg(zn)≡nArg(z)(mod(−π,π]).{displaystyle operatorname {Arg} left(z^{n}right)equiv noperatorname {Arg} (z){pmod {(-pi ,pi ]}}.}
例[編集]
- Arg(−1−ii)=Arg(−1−i)−Arg(i)=−3π4−π2=−5π4=3π4(mod(−π,π]).{displaystyle operatorname {Arg} {biggl (}{frac {-1-i}{i}}{biggr )}=operatorname {Arg} (-1-i)-operatorname {Arg} (i)=-{frac {3pi }{4}}-{frac {pi }{2}}=-{frac {5pi }{4}}={frac {3pi }{4}}{pmod {(-pi ,pi ]}}.}
参考文献[編集]
脚注[編集]
^ Dictionary of Mathematics (2002). phase.
^ Knopp, Konrad; Bagemihl, Frederick (1996). Theory of Functions Parts I and II. Dover Publications. p. 3. ISBN 0-486-69219-1.
文献[編集]
Ahlfors, Lars (1979). Complex Analysis: An Introduction to the Theory of Analytic Functions of One Complex Variable (3rd ed.). New York;London: McGraw-Hill. ISBN 0-07-000657-1.
Ponnuswamy, S. (2005). Foundations of Complex Analysis (2nd ed.). New Delhi;Mumbai: Narosa. ISBN 978-81-7319-629-4.
Beardon, Alan (1979). Complex Analysis: The Argument Principle in Analysis and Topology. Chichester: Wiley. ISBN 0-471-99671-8.
Borowski, Ephraim; Borwein, Jonathan (2002) [1st ed. 1989 as Dictionary of Mathematics]. Mathematics. Collins Dictionary (2nd ed.). Glasgow: HarperCollins. ISBN 0-00-710295-X.
外部リンク[編集]
- Weisstein, Eric W. "Complex Argument". MathWorld(英語). CS1 maint: Multiple names: authors list
カテゴリ:
- 三角法
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- 信号処理
- 数学に関する記事
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